お部屋にそっと香らせたり、マッサージやスキンケアに取り入れたり。さまざまな楽しみ方ができる精油(エッセンシャルオイル)ですが、木や植物などの材料からどんなふうに蒸留されて製品になるのか、それを知る機会はほとんどありません。 塩原温泉からは車で1時間弱の福島県南会津町。自社蒸留した精油をはじめ、日本産の香りにこだわる和精油ブランド「一十八日」の蒸留所がその町にあります。今回あかさわツアーで紹介するのは、その和精油が生まれるまでを知ることができるスタディツアー。しかも材料となる杉は広大な自然に囲まれた塩原温泉「赤沢温泉旅館」の敷地内で自ら採取し、それを運んで蒸留してもらう特別なツアーなのです。 和精油の優しい香り、そしてそれを育む森のこと。その場に身を置き、五感で感じることでいろいろな発見が見えてくる「香りの旅」へみなさんも参加してみませんか。

 

赤沢温泉旅館の敷地内で杉を集め

まずは和精油にするための材料を集めます。塩原温泉を流れる箒川のほとり、温泉街のほかの宿とは隔絶した一軒宿の趣がある「赤沢温泉旅館」。どこまでが敷地か分からないほど裏手に山が続いていて、今回はそこにたくさん自生する杉を集めることに。 高枝切りばさみやノコギリを使い、必要な分だけ枝と葉を切っていただきます。蒸留に必要な量は全部で約30㎏。小雪の舞う中、参加者全員で45リットルのポリ袋に10袋以上集めました。

赤沢温泉旅館の裏山は階段が整備されていて歩きやすい
少し上ると開けた場所が。ここで杉を集める
採取した杉の葉からは清涼感のある香りが

一十八日のある南会津へ。特別な蒸留体験

福島県南西部に位置する南会津町。和精油のブランド「一十八日」の蒸留所は、ショールームのある会津田島駅から少し山あいに入ったところにありました。建物の背後には小高い山並みが連なっています。 蒸留所では一十八日の代表・宝力絢さんとスタッフの方々が迎えてくれました。「出来上がったばかりの精油の香りなど、五感で感じてみてください」とスタッフの小平智子さん。普段ここは一十八日のクロモジやニオイコブシなどの精油の蒸留を行っている場所であること、3つの蒸留窯は材料によって使い分けていること、などの説明がありました。 そしていよいよ私たちが集めてきた塩原温泉の杉の蒸留がスタート。まずは枝と葉を粉砕機にかけて細かくします。ハーブ類はそのまま窯へ入れるそうですが、杉などの樹木は粉砕機にかけてから蒸留を行うそうです。粉砕するだけでも鼻腔を刺激する若葉のような香りが立ち上ります。 蒸留にはいくつかやり方がありますが、杉は水蒸気蒸留法で行うそうです。粉砕した杉の枝葉を入れた窯を下から加熱して蒸気を発生させます。蒸気中に放出された芳香成分は上に上がっていき、そしてそれを冷やすと水蒸気は水になり、水より軽い精油が浮いて抽出されるという仕組みです。「この蒸留法はメソポタミア文明のころに発明されたもの。基本的な原理はそこから変わっていないんです」と宝力さん。

蒸留所からの山々の眺め
「一十八日」代表の宝力絢さん(中央)、スタッフの島村美緒さん(左)、小平智子さん(右)
集めてきた杉の枝と葉を機械で細かく粉砕
粉砕した杉を入れた中窯の底。格子状に穴が空き、下から加熱する蒸気がまんべんなく当たるようになっている

シリンダーの下からぷくっ、またぷくっと小さな泡状に上がってくる精油。それが少しずつ上部に溜まっていきます。本当にゆっくり、ゆっくりと植物から芳香成分が抽出されていきます。

約1時間後、蒸留所に戻ると、シリンダーの上部に黄金色をした精油が溜まっていました。
27kgの杉を持参して採取できた精油は56㎎。杉はまだ抽出率が高いそうですが、クロモジやニオイコブシは本当に少量しか採れないそうです。希少価値が高い香りであることが分かります。

できた精油を見て、「とてもフレッシュな香りがします」と小平さん。私たちが採取してきたのは枝よりも葉が多かったため、一十八日の杉の精油よりも若々しい香りに。その日その時のでしか生まれない精油なのです。

この杉の精油だけでなく、副産物として蒸留に使用したフローラルウオーターがお土産にもらえました。杉の精油は抗アレルギー作用があり、花粉症の不快な症状を和らげる働きなどがあるそう。フローラルウオーターは入浴剤や除菌消臭スプレーとして活用できます。

シリンダーの上部に精油が溜まっていく

約1時間後、シリンダーに溜まった精油を取り出す

採取できた精油は56㎎。キレイな黄金色!

参加者全員で分けてお土産に

蒸留を待つ間はオリジナルブレンドのアロマづくり

精油の蒸留を待つ間、近くの社会教育施設「ほしっぱの家」に移動し、一十八日の和精油を使ったオリジナルブレンドアロマづくりを楽しみます。

まずはスタッフの小平さんより一十八日の和精油の説明がありました。「2014年より南会津の地元の方々と一緒にアロマ生産を始めました。今まで森で使われていなかったクロモジやニオイコブシ。丸太を切り出すときに山に捨てていた杉の枝と葉などを使ってアロマオイルにしています
。最近では耕作放棄地で紫蘇や薄荷の無農薬栽培も始め、それを使った精油の生産も行っているそうです。

南会津の森で育まれたクロモジ、ニオイコブシ、赤松、朴の木など。そのほか柚子、紫蘇、生姜といった馴染みがあるようで精油としては新鮮な日本の香り。用意された10数種の和精油をムエット(試香紙)に数滴垂らしてひとつひとつ香りを確かめ、その印象を自分なりに言葉にして書き留めていきます。「ニオイコブシは清涼感がある」「杉は森を歩いているかのよう」といったように、言葉にすることで香りの輪郭がはっきりしてくるようです。

ひと通り香りを確かめたら、あとは好きな精油をブレンドします。ムエットを数種組み合わせて嗅ぎ、ブレンドしたときの香りのイメージを膨らませます。香りが決まったら好きなバランスでボトルに注いでいけばオリジナルブレンドアロマの完成。

最後にできたブレンドアロマにどんなタイトルを付けたか、発表していきます。「会津の雪道」「森の恵み」など、どんな香りだろうと想像が広がる素敵なタイトルばかりでした。みなさん、ボトルの蓋を開くたびに、この日のことが香りとともに思い出されることでしょう。

精油の名前を書いたムエットに精油を垂らして香りを確かめる

5種類ほどの精油を組み合わせて自分好みのブレンドアロマに

和精油で伝えたい、会津の森のこと

「一十八日」の代表・宝力絢さんにお話しを伺いました。現在、東京と南会津とで二拠点生活をされているそうです。南会津という場所を選ばれたのにはどんな理由があったのでしょう。

「香りを楽しむアイテムのひとつとして、木のディフューザー(香りを空間に拡散させる器具)を取り扱っていまして、それを作っていただいていたのが南会津の木工所でした。南会津に来るようになったのはそれがきっかけでしたね。そこで地元の林業関係者に、クロモジや杉がたくさんあるけど、ここのものでも精油が採れるのかなと聞かれまして」。かつて盛んだった南会津の林業をこれまでとは違う精油生産という形で支援していくこと。活用されていない森を有効活用し、その価値を高めること。一十八日と南会津のつながりはそんなところから生まれていったそうです。

体験後、参加者の方々からはこんな感想が寄せられました。
「実際に自分で採って集めた材料が、大きな窯で精油になるのを目の当たりにできて、とても見応えありました」「最初から最後まで製造工程を見ることができ、採れた精油もお土産にもらえて非常に良かったです」「スタッフの方々もとてもフレンドリーで、説明も分かりやすく、楽しい時間を過ごせました」

和精油の香りは採取する場所や植物でも変わってきますし、季節が違えばまた違うものになるかもしれません。香りにはその日の思い出がぎゅっと閉じ込められています。その香りを味わうたび、塩原温泉のこと、南会津のことを思い出し、里山の自然の中でリラックスしているかのような気持ちにしてくれるはずです。

 


DATA

一十八日
https://spes-activity-nasu.com/


4 Comments
  1. 都内ではなかなか体験できない内容。これ単体でツアー汲んでも人は来るのではないでしょうか。

  2. 実際の製造過程が最初から見れて、製造物も土産にもらえて良かったです!!

  3. アロマは非常におもしろかったし。スタッフの方々もとてもフレンドリーだったのが印象的だった

  4. 楽しかったです。ただ事前に屋外の作業が多いことを教えていただきたかった。

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